ALL-ONE MAGAZINE #2
KANA KAWAGUCHI
認定NPO法人「Homedoor」理事長
「どんなことがあっても、やり直せる社会へ」。
ホームレス問題に取り組む

「Homedoor」理事長、川口加奈のビジョン

ドクターブロナーのカラフルな製品ラベルには、「オールワンビジョン」。すなわち、「争いや差別のない、1つの平和な世界」を願う、創業時からのフィロソフィーがしたためられている。
 
ここでは、そんなブランドの想いに共鳴し、平和や環境へやさしい眼差しを向けながら、小さな歩みを続ける人々にフォーカスを当てる。
 
2回目となる今回は、ホームレス状態にある人を支援する認定NPO法人「Homedoor(ホームドア)」の理事長を務める、川口加奈さんにスポットを当てる。

1.ごく身近に、社会の不条理に苦しんでいる人がいた

川口さんがホームレス問題に関心を抱いたのは14歳の時。通学途中の電車の窓から見たひとつの光景がきっかけだった。
 
通称「釜ヶ崎」。かつては日雇い労働者の街として知られ、時代の移り変わりとともに、いつしか「ホームレスの街」と呼ばれるようになったエリアで、そこには炊き出しを求めて列をなす人々の姿があった。

「当時の私は『ガラスのうさぎ』などの戦争文学にハマっていました。そのせいか、海岸から匍匐(ほふく)前進で上がってくる大勢の兵隊に遭遇する夢を見たことがあったんです。しかも時代はイラク戦争の真っ只中。もし自分が戦争当事国に生まれていたら、実際の戦場を目の当たりにしていたかもしれないと怖くなりました。それと同時に、出自によって人生が左右されてしまう社会の不条理さ、みたいなものにも、漠然と関心を持つようになっていました」。
 
ホームレス状態の人々が炊き出しに並ぶ様子に、「ごく身近にも、不条理に苦しんでいる人がいることにショックを受けた」という川口さん。その一方で、「今、自分にできることはないのだろうか」と考えるきっかけになったという。

「どんな状況に置かれていても、どんな境遇で生まれたとしても、公平に、その人らしい人生を歩んでもらえたら」。
 
そんな思いを胸に、2011年、19歳の時にホームレス状態の人や生活困窮者の人たちをサポートする「Homedoor」を設立。詳細はALL-ONE MAGAZINE #3に譲るが、夜回り活動や就労支援、宿泊施設の運営など、さまざまな活動を行っている。

2.しんどい時こそ、最高のおもてなし

起業から13年。昨年は年間1000人近くの新規相談者が訪れるようになるなど、活動の認知度が高まる一方で、年齢層や相談内容なども多様になってきているという。
 
「Homedoor」の相談者の平均年齢は40歳くらいだが、ここ数年で10代〜30代の相談者も増えているそう。割合でいうと実に半数を占めるそうだが、若い相談者の多くは、幼少期の家庭環境や日本が長く抱える労働環境の不安定さに起因して、困窮状態に陥るケースが少なくない。

「貧困のスパイラルが生まれる原因は、一概には言えません。ただ、さまざまな要因が重なることで、誰しもホームレス状態になる可能性があるということは痛感します。最近だと、例えば飲食店を経営していた人が、コロナが原因で困窮状態に陥ってしまったというケースがもありました。いつ、何が起きるかわからない中で、『どんな状態になっても、もう一度やり直せる』っていう仕組みを作っていけたらと思っています」。
 
「Homedoor」の事業所の上階にある一時宿泊施設「アンドセンター」には、こんなスローガンがある。
 
しんどい時こそ、最高のおもてなし。

「『Homedoor』を訪れる人の多くは、精神的にもギリギリの人がほとんど。そんな状態のままでは、いざ『やり直そう!』と思っても、なかなかうまくいきません。しんどい時こそ、個室でゆっくり休んで、美味しいご飯を食べて、心身ともに整えたほうがいい。そこで初めて『もういっぺん、頑張ろう』と、思えるんじゃないかなって」。

3.マジックソープは相談者の緊張をほどいてくれる

その一助となるべく、ドクターブロナーでは2020年から、「Homedoor」への製品提供や支援金のサポートを続けている。

「こういったご支援は、一度きりで終わってしまうことも少なくないので、継続的にサポートしていただけるのはすごく嬉しいです」。

現在は「アンドセンター」の各部屋にあるユニットバスや、路上生活中の人向けのシャワーブース、併設されるカフェ施設「おかえりキッチン」などで、ドクターブロナーのマジックソープが活用されている。

「新たに家を借りて新しく生活を始められる方へプレゼントする『新生活応援キット』の中にも入れてお配りしています。マジックソープのいい香りが、張り詰めた気持ちで相談に来られた方の緊張をほどくきっかけになってくれているのかもしれません」。
 
川口さん自身も、プライベートでマジックソープを愛用する一人だ。

「子供が生まれたのをきっかけに『やっぱり石けんは無添加がいいかな』くらいの認識で、マジックソープのベビーマイルドを使うようになったのが最初です。デリケートな肌にも使えるところが好きですね。洗顔時に皮脂を落とし過ぎない洗浄力もちょうどいい。それに、環境や社会問題に対して積極的にアプローチされているところにも、どこかシンパシーを感じます」。
 
川口さんたち「Homedoor」が目指すのは、「どんなことがあっても、やり直せる社会」。それはドクターブロナーが目指す「争いや差別のない、1つの平和な世界」と、どこか似ているような気がしてならない。
 
 
「日本では、何か失敗したら終わり、会社をクビになったら終わりみたいな風潮が未だ根強い。でも本来は、どれだけ挑戦しても、どれだけ失敗しても、その人の尊厳が失われるべきではないはずです。私たちの活動が、引いてはそういう社会のあり方につながっていけばいいなと思っています」。

PHOTO:Akane Watanabe
EDIT&TEXT:Soichi Toyama

■プロフィール
川口加奈(カワグチ カナ)
 
1991年生まれ。14歳の時にホームレス問題に出合い、19歳の時にNPO法人「Homedoor」を設立。ホームレスや生活困窮者のサポートを続ける傍ら、企業向けの講演会をはじめとする対外広報活動も積極的に行っている。現在1児の母。

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