2021年、沖縄でサンゴ保全活動を行う団体・ユニスクとともに発足した「#サンゴ再生チャレンジ」キャンペーンから、今年で2年が経ちます。昨年は、4月をアースデイ月間とし、キャンペーンと合わせて世界のサンゴ礁の現状と、浦底湾のサンゴ礁の経過を報告しつつ、“今、自分たちができること”に想いを巡らせてきました。そして3年目となる今年はこれまでの経過を振り返りつつ、改めて「サンゴ礁を守る」ことから、ドクターブロナーの軸であるオールワンビジョンについて、考えたいと思います。
CONTENTS
1―「1#=1手のひら分のサンゴを守ること」それを目標に発足されたキャンペーン
2―4965#によって設置された設備と、この1年間で起こった変化
3―結果報告:699手のひら分だったサンゴが約1年後に5,746手のひら分に!
4―オールワンビジョンを体現していた内藤少年とドクターブロナーの出会い
5―サンゴ礁は人間社会を評価する「通信簿」
6―アースデイをターニングポイントのひとつとし、小さくても「今、自分に出来ること」を
そもそもなぜドクターブロナーが「サンゴを守る」ために、このようなキャンペーンを立ち上げたのか。
その理由は、サンゴ礁が「海にいる1/4の生きものの住処になっている」からに他なりません。それなのにサンゴ礁の面積は地球の海の0.1%しかなく、2030年頃には絶滅する恐れもあると言われています。すると海の中の生態系が崩れ、人間を含めたすべての生きものは今のように海からのさまざまな恩恵を受けられなくなるのです。それを黙って見過ごせない、という想いから、沖縄を拠点にサンゴを守る活動を行うユニスクと手を取ったのがキャンペーンの発端となります。
そして2021年のアースデイから、#(ハッシュタグ)ひとつにつき、1手のひら分のサンゴを守ることを目標に、集まったハッシュタグ分を寄付という形で、ユニスクの活動資金にしてもらうというのが「#サンゴ再生チャレンジ」キャンペーン概要でした。結果的にサンゴはかなり増えたものの、キャンペーンの土台となる目標の立て方には、反省点や次回への課題が見えました。
ユニスクは浦底湾の海底にワイヤーなどを設置し、そこに流れてきたサンゴを自然と集まるようにしています。「養殖」や「移植」など人工的な方法は使わず、自然の流れで集まったサンゴがその場に留まり増えることでサンゴを守る、という手法です。ですがサンゴが集積される量はすべて自然そのものに委ねられます。この2年間の間に少しずつサンゴが集積しましたが、ときに強い流れで針金が切れて流されてしまったり、そうかと思えば、次の台風の時にまた大量のサンゴが集まったり。ユニスクからの報告は、自然の厳しさや面白さなど、海そのものの現象でした。
私たちもこの取り組みを通して、改めて自然をコントロールしたり、注ぎ込んだ労力分の成果を求めること、それを保証すること自体も無謀だったと気付きました。
またキャンペーン発足当初、「1#につき、サンゴ1手のひら分」と基準を設けていましたが、これらを明確な金額に換算して寄付するという、1手のひら分のサンゴを守るために必要な金額とは? など具体的な金額に換算する難しさもありました。
そこで2023年は一度立ち止まり、この取り組みから見えてきた課題と合わせて、浦底湾のサンゴの現状についてユニスクの内藤明さんへインタビュー。改めて、ドクターブロナーが目指すオールワンビジョンとこれからについて探っていきたいと思います。
―ではまず、改めてこれまでの「#サンゴ再生チャレンジ」キャンペーンの寄付により、整えられた設備について聞かせてください。
「ハッシュタグキャンペーンによる寄付ではじめに導入したのがエアホースやアクアラング(ダイビング機材)です。それまでは海にシュノーケルで潜って作業していたのですが、エアホース等を導入したことで長時間、海中に潜っていられるようになり、調査や作業がとてもスムーズにはこび本当に嬉しく思います。」
#ハッシュタグキャンペーンによる寄付で導入された
エアホースやアクアラング
「そして海底の設備について、当初は生分解性の針金やネットを張り巡らしていたのですが、針金が、強い流れや大きなサンゴ、岩が流れてきたときの衝撃で切れてしまい、現在は頑丈なステンレス製の針金に取り替えました。」
―前回のコラムで状況をお伝えしたのが、約1年前ですが、その後、浦底湾のサンゴ礁はどうなったのでしょうか?
「最近の一番大きな変化は2022年8月にあった大規模な白化現象です。それまでは浦底湾のサンゴ礁を守る活動も順調に進んでいて、“まさに20年前の石垣島の海の景色だね”と言えるほど美しい海に戻っていましたが、8月に入ると白化がはじまり、上空からドローンで確認するとほとんどのサンゴが白化していました。原因は温暖化による海水温上昇に加え、台風が少なく海水が混ざらず、サンゴの生息できる限界温度を超えたためだと思われます。しかし、そんな中でも、水面から3、4m程の深さに設置したドクターブロナーのワイヤーとネット周辺のサンゴは、72%以上が白化せずに残っていて驚きました。」
上空からドローンで撮影したサンゴ礁
―内藤さんの取り組みが功を奏しましたね。
「いくらサンゴを集積し、再生しようとも、水温の上昇は私たちだけでは抑えられません。実はここも“白化してしまうかもしれない”と思っていたんですが、7割以上が白化せずに残っていた。もしかすると、ここは流れがあるため、サンゴのストレスが抑えられて生き残ったのかもしれません。
一方で“残りの28%は死んでしまったの?”と思われるかもしれませんが、既に死んでしまったサンゴも流れによって集まります。実は、死んだサンゴを集めることも目的の一つなんです。サンゴは死んだ後も魚の隠れ家になったり、赤ちゃんサンゴがくっつく場所(基材)にもなります。昨年12月の調査では、実際に死サンゴの上で育つ稚サンゴを見つけました! 命の循環や、サンゴ礁の再生が本当に始まっていることが嬉しいですよね。
死サンゴの上で育つ稚サンゴ
―では実際、今どのくらいのサンゴが針金とネットの近辺にあるのでしょうか?
「サンゴ再生チャレンジでは、コンセプトのひとつに「手のひらいっぱい分の」というものがありましたので、ネットの周辺に集まったサンゴを、大人の片手のひらを凹めて作った面積(縦6cm×横3cm)に換算して計測しました。2022年1月の時点で699手のひら分だったものが、12月の時点で5,746手のひら分になっていました。単純計算しても1年間で約8倍以上のサンゴが集まったことになります」
―なんと、すごいですね!
「本当に嬉しいですし、何より結果に驚いています。しかしまたいつ白化現象に見舞われるかわかりませんし、気候変動で台風が強まると、海流も強まり大岩が流れてきて全て破壊されるリスクもあります。この場所のサンゴ礁が自然に再生されることを願い、今後も調査を続け、新たな守る手法を考案し続けます。」
―#キャンペーンに参加してくださった方々の想いがひとつ、実を結んだように感じられます。
―実は今回、この区切りとなるタイミングで、伺いたいことがあります。ドクターブロナーは、人間も動物も植物も、同じ「地球」という名の船に乗るひとつの家族と考え、ソープを通して世界を変えることを目標とする“オールワンビジョン”という指針があります。それは言い換えると「まるっと変えよう」というスローガンになるのですが、なぜ私たちの活動に内藤さんが賛同してくださったのか。その経緯を聞かせてください。
「3年ほど前、とある人を介してドクターブロナーの方々とお話しさせていたく機会があったのですが、そのときに思ったのは “こんなにもサンゴに興味を持ってくださるんだ”ということ。スタッフの方々がサンゴへの熱い思いと、マジックソープに対する溢れる愛情を語っていたのを覚えています。そのときにオールワンビジョンのお話を伺い、その価値観が素敵で泣きそうになるくらい感動しました。
私自身、中学、高校のときから環境のことに興味があり、その頃からサンゴ礁保全の団体に寄付をしていました。生活排水への対策や脱プラを意識し、石鹸一つで頭から体まで全身を洗うような、今思うと痛いくらい意識が高い子でもありましたが、前述のドクターブロナーが描くオールワンビジョンは、そんな子ども時代に思い描いていた社会や未来が体現されるものでした。だからキャンペーンのお話をいただいた時には嬉しくて、二つ返事で引受させていただいたのです。それが今日へとつながっています」
「実は3月に石垣マルシェというイベントが石垣島で開催されました。その時もドクターブロナーさんにご協力いただき、生物多様性や海の豊かさを体感する『ぬりえ」を実施し、マジックソープを参加者にプレゼントしました。ご家庭の石鹸や洗剤をマジックソープに切り替えるだけで、すぐに環境保全に取り組める。本当に素晴らしいですよね!」
―ありがとうございます。これからも内藤さんと私たちが手を取り合い、サンゴを守ることでオールワンビジョンを具現化していければと思うのですが、今後の展望はありますか?
「たくさんあります。ひとつたとえ話をさせてください。私が信頼するある先生は、“サンゴ礁は人間社会の通信簿だ”とおっしゃいます。人間が環境に対してしっかり考え、対策を取ればオール5が取れるし、やるべきことを怠ったらオール1にもなる。海やサンゴ礁は、人間社会そのものを映し出すのです。ですから小さな活動でも、どんなことでもいいので、目の前のことをコツコツ、ひとつひとつ積み重ね、今回のような明るい結果を出し、発信し続けたいですし、講話会なども行いたいです。」
―そうですね…、サンゴ礁が絶滅したら間違いなく今の海とは様子が変わってしまいますからね。
「そうなんです、沖縄の周りにあったサンゴが減り、そこに住む生きものが減ったことで、すでに沖縄近海では魚が獲れなくなっています。すると地元漁師さんたちの仕事や、地域の食文化も変わり、その先には伝統文化の損失も起こるでしょう。温暖化がもたらす影響はとても幅広いもの。こうした話題はもっとニュースで扱ってほしいですね。」
―ただ事ではないというか、危機感すら持つべきですね、私たちは。では最後に内藤さんの今後ついて聞かせてください。
「ユニスクはボランティアの組織ですが、今年から一般社団法人化すべく、現在走り回っている最中です。今後はサンゴを守る活動だけでなく、環境問題などの話題も取り組んでいきたいです。もちろん、ドクターブロナーと取り組んでいるこのサンゴ礁保全も継続します。この手法をオープンソース化し、他の場所でも応用してもらえるようさらに研究を進めることも目標です。」
―“サンゴ礁は人間社会の通信簿”という言葉が刺さりますが、それに怖気付くだけではなく、内藤さんのいう通り“小さなことから、コツコツと”ですね。
「ええ、そのためにはまず知ることから。なぜサンゴ礁が大切なのか、どうして必要なのか、その部分に触れた人は意識が変わると思うのです。サンゴ礁もそうですが、海のゴミ問題など、どんなことでもいいから現状を知ってもらい、地球にいる人間一人ひとりが、些細なことでもアクションを起こしていく。そのためにこうしたメディアなどを通して、関心をもっていただけたら嬉しいです」
―ありがとうございます! 今回もアースデイと合わせて、人々の小さなアクションのきっかけづくりになれるよう、頑張りたいと思います。
昨年のコラムから1年ぶりとなる今回。内藤さんとのオンラインインタビューから、「#サンゴ再生チャレンジ」のハッシュタグキャンペーンによる針金とネットの取り組みは、良い結果が見込めて一安心しました。今回の結果と合わせて、みなさまの「#サンゴ再生チャレンジ」への参加に改めて感謝したいと思います。
そしてその先にいつも思い知らされることであり、忘れていけないこと。
それは、私たちが暮らす地球の大部分を占める海には、サンゴ礁のシビアな現状をはじめ、さまざまな問題が広がっていること。もう現実逃避する猶予はないので、今年もアースデイをターニングポイントのひとつとし、小さくても「今、自分に出来ること」を考えてみましょう。そしてドクターブロナーがその選択肢の一つになれるよう、これからもオールワンビジョンのスローガンのもと、精進していきたいと思います!
写真提供
Akira Naito
ユニスク
ユニスクは様々な人々、企業,団体と連携し、失われつつある自然環境を保全・再生し、環境と共生できる豊かな社会の実現に向け、持続可能な発展を推進することを目的とする。
日々の活動はこちらから
https://www.instagram.com/unisk8/
■プロフィール
内藤 明/Akira Naito
ユニスク 代表
石垣島エコツアーりんぱな 代表
NPO法人 Earth Communication 代表副理事
日本サンゴ礁学会所属
1983年 東京都生まれ。タヌキやノウサギが棲む里山を駆け回って育ち、高校卒業後に石垣島に移住。2006年より石垣島エコツアーりんぱなを立ち上げ、ツアーガイドの傍ら大学や自治体の業務で野生動物の調査を行う。
島内外の子どもたちを受け入れサンゴ礁を学ぶ環境教育なども実施。NHK、イギリスBBC他多数メディア出演、協力。
アマチュア研究者として許可を得てサンゴの研究を行う傍ら、映像表現の技術を磨く。