ここ数年、世界中のゴミ問題に注目が集まり、プラスチックゴミを軽減する動きがさまざまな業界で起こっているのを感じています。飲食店がプラスチックストローをやめて環境に優しいものや洗って使いまわせるカトラリーを導入したり、スーパーやコンビニなどで袋が有料になったり。そのおかげでエコバッグやタンブラー、マイ箸などを持ち歩く人も増え、何も考えずにゴミを減らすアクションができるのは嬉しいことなのですが、一方で環境問題の根本的なことについて知っている人はどのくらいいるのでしょうか。
今回は、工学博士であり海洋研究者の許正憲先生と、サーフライダーファウンデーションで事務局長を務めるプロサーファーの石川拳大さんから海洋汚染についてお話を伺いました。今の私たちの環境への興味やアクションが、ただの流行で終わらないためにも、海洋汚染を基本的なことから学び、海にも自分たちの生活にも優しくハッピーな取り組みについて考えましょう。
―最近、さまざまなメディアを通して海に浮かぶ大量のゴミの映像などを多く目にするのですが、今海ではどんなことが起こっているのでしょうか? 海洋汚染について、お二人それぞれの視点から教えてください。
石川拳大(以下、石川):
ゴミの話をすると、僕は4歳の頃からサーフィンを始めて、もう20年以上海に入っているのですが、当初からビーチクリーン活動を通して、海岸周辺にプラスチックゴミや日用品が漂着しているのを見て来ました。
ペットボトルやビニール袋はもちろん、スリッパや歯ブラシ、何かが割れた破片など、挙げたらきりがないですが「絶対に海には持ってこない、捨てないだろう」と思うようなものも多々ありました。
許正憲(以下、許):
確かに今、プラスチックのゴミについて注目されていますが、実は30年ほど前からすでにこのことが話題になっていました。当時、世界各地の海岸で米粒の半分ほどの大きさの物質がたくさん見つかり問題になりました。それを調べたらレジンペレットというプラスチックの原材料だということが分かったんですが、それでもその時は大きく関心を集めるというより、サーファーや漁業で生計を立てる人々、海の周りの住人が問題視していただけでした。ですから、僕の体感として今の動きは「やっと海で起こっていることが知られるようになったか」という感覚です。
石川:
許先生は研究のために深海に潜られるじゃないですか? そこにゴミはあるんですか?
許:
そうですね、深海6500mまで潜っても海底にプラスチックゴミが落ちていますよ。
石川:
それらはどうなるんですか?
許:
それはそのままプラスチックゴミとして残ります、この先も。今でこそ生分解性のプラスチックなどが作られていますが、昭和初期の頃に作られたプラスチックはとにかく耐久性があり丈夫であることが売りだったので、それは深海へ行ってもそのまま残ってしまいますよね。
―なんとも人間にとって都合よく作られたものが環境に悪影響を及ぼしている具体的な例ですね……。
許:
ゴミは海で捨てられなくても、陸地でポイ捨てされたゴミが台風や雨の時に側溝や川に落ちれば、最終的に海に流れ着いてしまうんです。そして、それは台風や大雨の後は顕著になります。だから海にゴミを捨てているつもりがない人でも、きちんとゴミを処理しないと結果的に海洋汚染につながるということを認識してしいです。
また目に見える汚染というとゴミなどが主ですが、目に見えない水質汚染も海洋汚染のひとつです。例えば生活排水などがそのまま海に流れ込んでくることで、海が汚れそこで暮らす生き物はもちろん、レジャーとして海に入る人やサーファーの体にも目・鼻・口を通して、少なからずその水が体内へ入ることで健康を害することがありますよね。
石川:
おっしゃる通り、僕がサーフィンをしている茅ヶ崎の海も近くに下水処理場があります。そこは大雨や台風になると貯水タンクがキャパオーバーして海に汚水が流れ出し、夏場などは水質がとても悪くなってしまいます。そこで僕も役員を務めるサーフライダーファウンデーションが水質調査を行い、藤沢市にある辻堂浄化センターの改善工事に着手するための予算を割いてもらえるよう働きかけ、2023年までに約70億円をかけて施設内の汚濁水処理能力を更に高めるため雨水滞水池の整備、処理水が海岸へ流れる放流管の整備などの対策事業を実施する計画となりました。
参考:https://www.surfrider.jp/politics-forum/3106/
―海に浮かぶゴミを見ても、どこか他人事というか……そんな感覚だったので、目に見えない海洋汚染がそこまでダイレクトに人々の健康に影響していたなんて想像もつきませんでした。もしこのまま人々が海を汚し続けたとしたら、自分たちの生活には具体的にどんな影響があるのでしょうか?
石川:
それは僕も許先生に伺いたいです。
許:
そうですね、海の環境というのはそれぞれの要素がそれぞれ独立して存在しているのではなく、お互いが複雑に絡み合って変化していきます。地球は水を介して、物質とエネルギを循環するのですが、そのシステムの中でもっとも大きな役割を果たしているのが、海です。
地球温暖化では海水温が上昇することで、海の生態系が変わることはよく知られていると思いますが、例えば、身近な海をみても、冬場に水温が下がらないために海藻が育たなくなってしまう。そうするとそこを住処としていた魚や貝がいなくなり、それらを水産資源としていた人間にも影響が出ます。
海洋汚染や地球温暖化だけではありません。私は今、鎌倉の海の近くに住んでいるんですが、海岸浸食が進み、何年もかけて砂浜などが狭くなって行くのを目の当たりにしています。浸食と堆積、それ自体は砂浜が自然の中で変化するサイクルのひとつであり、ある季節に卓越した風・波・流れによって砂浜が浸食されたとしても、別な季節にこの逆作用で堆積がすすむ。
長い目でみるとバランスがとれていて、その砂浜の健康状態は維持されているのです。
しかし、沿岸における人工構造物設置など人間活動が及ぶことでこのバランスが崩れると一方向の作用がすすみ、海自体がもつ自己調整力や復原力が及ばず、海そのものがまた正常な状態に戻ることができなくなります。
人間が出すゴミや生活排水、汚水やそのほかの汚濁物質によって、海洋汚染が進み、海がもつ本来あるべき自己調整力と復原力が失われていけば、海だけでなく、地球環境自体の自然治癒機能が失われてしまう。
地球環境はこの先どんどん悪い方向へ進むということは十分に考えられると思います。
―では、少しでも海洋汚染を軽減するために、今私たちがすべきこととは具体的にどんなことでしょうか?
許:
とにかく「考える」ことは重要だと思います。そして、そのためには「知る」ことも。例えば車を洗うときに環境に配慮した洗剤を使う、除草剤などを使うにしても環境に悪い化学薬品を使わないようにする。自宅の庭に撒いた除草剤でも土に浸透し長い年月を経て、地下水となって海に流れるという自然の仕組みを知って、何を選ぶべきか考えて欲しいです。それはシャンプーや石鹸も同じですね、生活排水として海に流れることを考えて環境にやさしい物を使うとか。
また日本には全国ビーチクリーンナップ事務局(JEAN/http://www.jean.jp/)という団体があります。海岸清掃をしながら、独自にゴミ調査などを行い、さまざまな問題発信をしているので、そういうものを調べてみることなども具体的にできることだと思います。
石川:
最近は、エコバッグやタンブラーなどを持ち歩いて、ビニールやペットボトルゴミを減らす動きが大きくなっているのはいいなと思います。ドクターブロナーさんも環境にやさしいプロダクトを作りながら、さまざまな活動をされていますが、それらを通して人々のサスティナブルな物事への関心がますます高まり、身の回りにあるものから環境に配慮したものを選ぶことが普通になるのが理想ですね。
しかし、そのためにはまず知ることが重要なんですよね。実は許先生と一緒に『海の寺子屋』という動画を作っていまして、そこでは子供たちへ向けて今、海でどんなことが起こっているか、対話しながら伝えているんです。
―その動画、拝見しました! 子供たちが一つひとつ思考しながら答える様子が印象的でした。
許:
石川さんの言う通り、具体的なアクションと同じくらい海について知ってもらうこと、すなわち教育が大事です。行政や大企業など、世の中の動向に影響を及ぼす大人たちがきちんと海の現状を知ることはもちろん重要ですが、同時にやって行かなくてはいけないのは次世代を担う子供たちへの教育です。そのためにさまざまな最新研究の結果を盛り込んだ動画を作ったり、講演を行っています。今、海で起こっている問題を伝えることはもちろん重要ですが、その前にまず、海には楽しいことや面白い(神秘的なこと)、そして、自然には人間が太刀打ちできないものすごいパワーがあること(怖い部分)、それらをしっかり伝えることで、海に対して畏怖や尊敬の念が自ずと備わっていくことができると思います。
そして、そんな子供たちが大人になっていった世の中では、法律で罰則などを設けなくても、当たり前のように、誰も海にゴミを捨てなくなるだろうし、環境に優しいものを使うのが当たり前な時代になっていくのだと思います。
―ついつい「じゃあ私は今から、何をすればいいの?」と簡単な答えを求めがちですが、そもそも根本的なことを理解していないと、考えや生活には浸透しないかもしれないですね。
許:
そうですね、まずは海も陸も山も水を通してひとつにつながり、循環していると知って欲しいです。海でゴミを捨てなくても、陸地で捨てられたゴミが最終的に海に流れ込んでくるということを知ると、陸地にいる人々にとっても「海洋汚染」は他人事ではないはず。ポイ捨てをして目の前からなくなったゴミは、「自分の目の前」から消えただけであって、この世から消えたわけではありません。そこから自分たちの生活を見直し、消費者として選択肢を持ち、そしてできることをやる、そうすることで人間による海洋汚染のない海をみんなで目指すことはできると思います。
石川:
許先生のおっしゃる「できることをやる」が本当に大切で、僕は0か100かみたいな考えは違うと思っています。人々が環境のことを考えたからと言って、いきなり生活の全てを変えることはできませんよね、僕だって車にも乗るし、物も消費します。あくまでバランスを大切にしながら、続けられることを続ける。プラスチックだって、いきなり悪者扱いするのではなく、それぞれの特徴や使い方を知ったうえで正しく使って、正しく処分する。ペットボトルのゴミが出たら、ちゃんとリサイクルに回す、とか海洋汚染も含め環境問題については、誰かが何かを強要して改善しようとするのではなく、まずは一人ひとりが自分の知っていることを共有すること。そこからみんなが考えて、自分のできることを続けていくことが大事だと思います。
許:
サーファーの人々というのは、普段沖へ出てサーフィンをしながら身をもって海で起こっていることを体感しているだけあって、危機感や問題意識も強いですよね。今は世の中がその問題意識と向き合い、世界中が海洋汚染を重要課題として取り組んでいく動きになってきています。サーファーたちが肌で感じていた危機感や問題意識が、科学によって証明され、ちゃんと解決のために動いていることはいいことだと思います。
石川:
そうですね、だから僕たちは何が良い、悪いという以前に多くの人々が海に対して「知らない」という現状を変えていきたいです。その上で人々がサスティナブルな生活の心地よさを体感できれば、海洋汚染はゆっくりとですが軽減していけるのではないかと。
個人的にサスティナブルな生活を意識し始めて良かったのは、一つひとつ手に取るものについて考えるようになりました。長く使うことを考えて選んだり、繰り返し使えるかどうか気にすることで身の回りが豊かになりました。また実際にエコバッグを持つことで有料の袋を買わずに済んだり、家でコーヒーを作ってタンブラーに入れて持ち運ぶことは経済的ですし、自分たちにとっても嬉しいことですからね。
―海洋汚染について気付くのが遅く、反省するばかりですが、ネガティブな気持ちにならず、できることから始めたいと思いました。海洋汚染の現状から一人ひとりの意識やサスティナブルな暮らしの本質に触れる部分まで、たくさんのお話をありがとうございました。
今も昔も、常にどこかで呼びかけられていた環境に関するさまざまな問題ですが、ここ数年注目が集まると同時に、私たちの暮らしには多種多様な選択肢が生まれています。そしてそれをきっかけに、できる範囲でエコを意識するようになった人も多いと思いますが、その動きが一過性のブームで終わってはいけないと強く感じました。
そして許先生と石川さんのお話から、自分なりの選択肢と向き合うことになる人々も少なくないと思います。昨年からコロナの影響により、世の中が大きく変わるなかで在宅ワークによるステイホームが定着し、家にいる時間が長くなった私たちが今できることとは?
例えば外食ができなくなり、自炊する機会が増えた人。いつもシャワーで済ませていたけど、湯船につかるようになった人。家の隅々まで掃除したり、洗濯も一つひとつ丁寧にするようになった人。今、世界中の人々がライフスタイルの変化を余儀なくされている中で、せっかくだったら環境に優しく自分たちの生活の質も上げてくれる選択肢を増やしていきましょう。
その選択のひとつとして、知って欲しいのがドクターブロナーのマジックソープです。顔から爪先まで洗えるだけでなく、食器洗いや洋服の部分汚れ、野菜や果物(ベビーマイルドのみ)からペットのシャンプーまで、1本で10役こなしてくれるマジックソープは、あれこれ用途別の洗剤を買い揃えなくていい分経済的ですし、ものが増えすぎる心配もありません。
しっかり汚れを落としつつ、天然由来成分100%の洗浄成分なので、生分解性も高く、子どもから大人まで使えるのも嬉しいところ。お店で見つけた際はぜひ、気軽に手にとってみてください。